野球の非回転球における空気力の影響茨城大学大学院理工学研究科知能システム工学専攻 鈴木 悠太 論文要旨 野球競技において投手の投げる変化球の中には,非回転球と呼ばれる球種が存在する.例えばナックルボールやフォークボールなどは代表的な非回転球である.これらの球種は複雑な空気力が働くことでボールに不規則な変化が生じる.このときの空気力を正確に計測することは困難である. 本論文では,各空気力を考慮した運動方程式を用いることで,これらが軌道に与える影響を検証した.はじめに,空気抵抗と揚力を考慮した運動方程式を導出し,さらに方程式の無次元化を行った.これによって現象に本質的なパラメータのみが方程式に残り,問題を単純化できる. 各空気力がボールの軌道に与える影響を無次元化した式を用いて検証した.最大投射角を比較した結果から,空気力が大きくなるほど最大投射角は小さくなることが分かった.特に揚力が最大投射角に与える影響が大きいことから,非回転球においては揚力の変化が重要であると考えられる. 次にボールに不規則な空気力を与えた状態で軌道を比較した.はじめに,ホワイトノイズを用いた空気力を与えて検証した.しかし,複数回試行した結果を比較したところ,軌道に違いは見られなかった.そこで,非回転球ではボールの回転数が少ないという点に着目した.ボールが一回転する際の空気力の変化を,正弦波を用いて再現した場合の軌道を比較した.この結果から変化の周期が長いほどボールの軌道への影響が大きいことが分かった. さらに野球ボールにおいて,正弦波で近似した空気力を用いた軌道を有次元で比較した.その結果,正弦波の周期や初期角度の違いにより,キャッチャーの位置で軌道には十数センチの違いが見られた.投手が投げる際にも,ボールの握り方の僅かな違いが軌道に与える影響は大きいと推測できる. 本論文では,シミュレーションによって野球ボールの軌道を検証した.得られた結果から,非回転球における変化の本質はボールの回転が少ないことによる長い周期での空気力の変化であると考えられる.今回の結果をもとにして,計測結果などと照らし合わせることで,空気力がボールの軌道に与える影響をより詳しく検証,解明できると思われる.またこれらのデータを基に選手の技術向上への応用も期待できる. |
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